6号・2013夏

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かつて、ホラーがごく身近な娯楽だった頃を覚えています。折しも、のちに「バブル」と呼ばれた好況の時代。高校生の少年少女が、デートなのに「死霊のはらわた」を上映している映画館の前で入場時間を待っている。レンタルビデオ店には「ホラー」だけでなく「スプラッタ」「ゾンビ」の棚まである。毎月数冊の海外ホラーが、文庫で発売され、持ち重りのするほど紙質も印刷も豪華な女性雑誌でスティーヴン・キングが取り上げられる。景気の波はホラーにも良い時代をもたらしたようでした。

こと、若い人向けのメディアでのホラーの理解には、脱帽しました。たとえば、あるティーンエイジャー向けのファッション誌には「怖いものを怖いと思えるのも、それでも興味を持つのも健全なセンス」と書かれていました。キングはあるインタビューで「自分が怖れる状況をあえて小説の題材とすることで、その恐怖を乗り越える」と語っていましたが、それと合わせて、作り手も受け手も健全だからこそホラーは楽しめるものになるのだ、と、あらためて思ったほどです。

ホラーで描かれるのは、おおむね不幸な状況です。だからといって、人の不幸を娯楽にするようなジャンルでは、けっしてありません。突然の死。理不尽な苦痛や暴力。日常を踏み荒らす怪物。変貌し安心が消え去った世界......作品の中の恐怖は、現実の恐怖の誇張された鏡像なのでしょう。そして、たとえ非力でも、その恐怖に正面から立ち向かう主人公たちの姿から、私たちは現実の恐怖に抗う勇気を得られる。ホラーの役割は、おそらくそこにあるのでしょう。隆盛をきわめる実話怪談も、何度めかのブーム到来といわれるクトゥルー神話も、おそらくはそんな役割を負っているのかもしれません。

さまざまな不安のなかに私たちが身を置く現在、安楽だったあの時代にもさらに増して、ホラーは役に立つのではないか。そんな思いがよぎることが、ことに最近、多くなりました。


【特集・ゾンビ!】 ZOMBIES!

〈特集解説〉殺りに行けるモンスター 現代ゾンビ物語考 霜月 蒼

  • 「狩り—そして、そのあとさき」ジョー・R・ランズデール 高山 真由美・訳 松山 ゆう・画
    冷えてしまった間柄を修復するため、男は妻を狩猟旅行に誘った......彼の真意は?
    "The Hunt: Before, and the Aftermath" by Joe Lansdale
  • 「忌まわしき艦影」デリク・ガン 森沢 くみ子・訳 ダニエーレ・セッラ・画
    仏フリーゲート艦の航行を阻止せよ! 英戦艦の乗員たちは洋上に地獄を見た!
    "The Diabolical Plan" by Derek Gunn
  • 「ロンドン死者戦争」ウィリアム・ミークル 夏来 健次・訳 楢 喜八・画
    蘇った死者の群、進軍す! ロンドンの危機にチャレンジャー教授が立ち上がる。
    "Parting the Veil" by William Meikle
  •  「屍の顔役」グリン・バーラス&ロン・シフレット 植草 昌実・訳 田川 俊樹・画
    ウェスト博士が蘇生させた亡き妻を捜せ! 無頼探偵タワーズ、アーカムを駆ける
    "Big Boss" by Glynn Barrass and Ron Shiflet

【連続企画】夜の声〈ホラーの巨匠:作品とインタビュー〉

第二回 ラムジー・キャンベル
〈世界幻想文学大賞受賞作〉「マッキントッシュ・ウィリー」 金子 浩・訳 タケウマ・画
死んだホームレスの男の目に銀貨を置いたのは誰? 甦る少年の日の悪夢。
〈インタビュー〉聞き手:ダレル・シュワイツァー 棚藤 ナタリー・訳
"Mackintosh Willie" by Ramsey Campbell

●特別書き下ろし創作

「歌姫のくちびる」 田中 啓文 藤原 ヨウコウ・画
幻のジャズシンガーを捜して、俺は廃墟のようなアパートの奥へと踏み込んだ......

【連続企画】井上雅彦選・日本SF/ホラー名作再録

センス・オブ・ホラー、ブラッド・オブ・ワンダー 
第二回 星 新一
〈名作再録〉「殉教」 YOUCHAN・画
死の恐怖をも克服せしめる革命的な発明。それは人々に安泰をもたらすのか?
〈解説〉井上 雅彦

【来日記念/オーストリア・日本ホラー対談】

アンドレアス・グル―バー 朝松 健

●エッセイ

  • ピーター・カッシング生誕百年記念・特別寄稿
    カッシング・オン・スクリーン 菊地 秀行
  • 追悼 ジェームズ・ハーバート 笹川 吉晴
  • クトゥルー・ミーツ・アメリカンコミックス(中)森瀬 繚

●連載小説

The Faceless City 第二章 死都アーカム 朝松 健 槻城 ゆう子・画

●連載コラム

  • 【リレー・エッセイ】私の偏愛する三つの怪奇幻想小説
    ナニかに魅入られた人と世界 くしまち みなと
  • Asian Horror Now (6) 立原 透耶
    ゾンビかキョンシーか 〜ゾンビの人権を求めて
  • 金色の蜂蜜酒を飲みながら (6) 朱鷺田 祐介
  • ファンタスティック・シネマ通信 (6) 鷲巣 義明
    チェーンソーを振り回して40 年、ついに3D 映画で登場す!
  • ホラー&ダーク・ファンタジー書評 Night Library (4) 笹川 吉晴
  • クトゥルー・インフォメーション(海外編) マット・カーペンター
    邪神たちのクラウド・ソーシング 英文オンライン