7号・2013秋

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【特集・妖女!】 Magical, Mystic and Monstrous Women!

  「人でなしの恋」は、江戸川乱歩の短篇小説の中でも秀逸な一篇だ。夫の不審な行動をいぶかしむヒロインの、情感あふれる一人称の語りも印象深く、広い意味でのホラーの秀作として世評も高い。それよりまず、題名からして秀抜ではないだろうか。「人でなしの恋」とはどういう恋なのか。読まずにはいられない。これから読むかたの興味をそがないよう、ちょっとだけ書いてしまうと、人でなしというのは非道とか無情とかを指すのではなく、文字どおり「人間でない」ということ。残念なのは、乱歩が古今東西の怪奇小説を語った「怪談入門」にも「恋愛怪談」という項目があるのだが、中国の古典作品のみ語っており、この自作には言及がなかった。
  ホラーの名作の中にも、ロマンスや、エロティックな要素を含むものは多い。が、それらのうちのかなりの数が、男性の側から書いているような気がする。澁澤龍彦の翻訳で名高いゴーチエの「死女の恋」では、修道士が女吸血鬼との恋を回想する。泉鏡花の「高野聖」は、修行中の僧が飛騨の山中で、獣に囲まれて暮らすこの世ならぬ美しい女に誘われる。平井呈一の「真夜中の檻」の主人公も男で、出会うのも異界の美女。レ・ファニュの「吸血鬼カーミラ」は女性の視点から語られる話だけれど、タイトルどおり相手も女性だ。そうそう、愛しい男のもとを女幽霊が夜ごと訪れる「牡丹灯籠」という古典を、忘れてはいけない。
  ここまでに挙げた作品の作者はみな男性。女性よりも恋愛に対して夢見がちなのだろうか。「人でなしの恋」に身を委ねたい、という欲求は、止まないものなのかもしれない。
  女性作家の恋愛怪談の作例として、エリザベス・ボウエンの「悪魔の恋人」を見てみると、作中でヒロインを迎えるこの世ならぬ男性が、彼女にもたらすのは、膨らんでゆく不安ばかり。そして、出会ったときに恐怖の針が振り切れる。普通の人間が相手でも、恋は楽しいばかりじゃない。まして相手が人ならぬものなら、怖いお話にならないわけがない。
  それでも、最近はロマンスにも「パラノーマル」というジャンルができて、美青年ヴァンパイアやゾンビのナイスガイが、王子様や野生児のお株を奪っているのだとか。「悪魔の恋人」の設定も、そちらに持っていけそうだが、怖さは残るのか、それとも他のものに変わってしまうのだろうか。
  今回の特集では、ブラム・ストーカー賞の受賞作を筆頭に、アメリカ、イギリス、カナダの新鋭たちの「妖女」テーマの作品を取り上げた。


【掲載作品変更のお知らせ】
『地獄の家』『13のショック』など、数々の傑作でホラーの巨匠の名も高いリチャード・マシスンが、去る6月23日にロスアンジェルスで亡くなりました。享年87。
小誌では急遽、第7号の創作+インタビューの企画ページ〈夜の声〉をマシスン追悼に充て、書籍未収録短篇「死線」(伊藤典夫訳、再録)とインタビュー、ならびに追悼エッセイを掲載いたします。
なお、同企画で掲載予定のデニス・エチスン「オリンピック・ランナー」+インタビューは、第8号に掲載いたします。日本ではまだ知らせていないエチスンの紹介を楽しみにしていてくださった読者の皆様には、お詫びを申し上げるとともに、12月の第8号を御期待いただけますよう、お願いいたします。

  • ブラム・ストーカー賞短篇部門受賞作「マグダラ扁桃体」ルーシー・A・スナイダー 森沢 くみ子・訳 槻城 ゆう子・画
    "Magdala Amygdala" by Lucy Snyder
  • 「ナイチンゲール」 サイモン・ストランザス  増田 まもる・訳 ダニエーレ・セッラ・画
    "The Nightingale" by Simon Strantzas
  • 「サディスティックな少女たち」マット・レイション 田村 美佐子・訳 児嶋 都・画
    "Sadistic Little Girls" by Matt Leyshon
  • 「カーリー」 グリン・バーラス 田中 一江・訳  藤原ヨウコウ・画
    "Cali" by Glynn Barrass
  • 「墓地の恋人たち」ブライアン・サモンズ 植草 昌実・訳
    "Cold Desires" by Brian Sammons 

【追悼】 リチャード・マシスン

  • 傑作再録「死線」伊藤 典夫・訳 高木 桜子・画
    "Deadline" by Richard Matheson
  • インタビュー「ダーク・ドリーマー、リチャード・マシスン」スタンリー・ウィーオッター 棚藤 ナタリー訳
  • エッセイ
「マシスン短編の魅力」仁賀 克雄
「その日どこかで」井上 雅彦
「おのれの現実を書き続けた作家」瀬名 秀明

●《創作》英語、イタリア語で先行発表された意欲作、本邦初公開!

「インビジブル」 立原 透耶 藤原 ヨウコウ・画

【連続企画】井上雅彦選・日本SF/ホラー名作再録

センス・オブ・ホラー、ブラッド・オブ・ワンダー 
第三回 光瀬 龍
〈名作再録〉「哨兵」 YOUCHAN・画
〈解説〉井上 雅彦

●エッセイ

  • ピーター・カッシング生誕百年記念・特別寄稿
    カッシング・オン・スクリーン2 菊地 秀行
  • クトゥルー・ミーツ・アメリカンコミックス(後)森瀬 繚
  • 新雑誌「Monsterzine」創刊!

●連載小説

「依頼者の名は"空白"」The Faceless City 朝松 健 槻城 ゆう子・画

●連載コラム

  • 【リレー・エッセイ】私の偏愛する三つの怪奇幻想小説
    究極の恐怖は「定義できないもの」山本 弘
  • Asian Horror Now  立原 透耶
  • 金色の蜂蜜酒を飲みながら  朱鷺田 祐介
  • ファンタスティック・シネマ通信  鷲巣 義明
  • ホラー&ダーク・ファンタジー書評 Night Library 笹川 吉晴
  • クトゥルー・インフォメーション(海外編) マット・カーペンター